女王様の図書室


2008年1月に読んだ本     

年の初めからイマイチな読み応え。
失われた町は期待してしまっただけに残念な感じ。
冊数も少ないので仕方ないかな。
とはいえ、去年から読み始めてやっと読破した「沈まぬ太陽」はスゴイ。

消失         中西智明 5.5カラット
王様が読んでみて!と図書館で借りてくれた。
が、正直読み進めるのが結構しんどい。だって、文章が下手なのだ。下手なんて私に言う資格はないかとも思うけど、やっぱり言わせてもらおう。この作品は彼のデビュー作だそうで、どうしてもまだ文章を書くテクニックが身に付いてない感じ。そのせいで、臨場感にかけたり、登場人物の描写がしきれてなかったり、そんな部分が多いのだ。これはたぶん、量を書けばうまくなっていく人も多いだろう、なので今後に期待したい、と言いたいところだが、なんとこの作家、この後一作も書いていない。おいおい。
ちなみに、王様がどうして読んでみて!と言ったかは、このトリックのネタが理由なので、ここには書けません。
このネタはちょっとびっくりで、憤慨もするけど、やられました。
そう来たか!ってかんじ。こんなのを考えられるんだから、是非文章の方を磨いて、書き続けてほしかったなぁ。そうすりゃぁ読み応えあり、トリックびっくりの作家になったろうに。(と偉そうに・・・)

名もなき毒      宮部みゆき 6.9カラット
「誰か」の続編であるこの作品、登場人物は前回同様だ。
主人公は、今田コンツェルンの社内報編集の杉村三郎。彼の妻は今田コンツェルンの会長の娘。
今回の事件は連続毒殺事件と社内報編集部のアルバイトの女性の異常な行動とが同時進行で起こっていく。
二つの事件の顛末は興味深く、よく練られていると思う。端々にちりばめらたシックハウス、介護など現代社会が抱えた問題も浮き彫りにされていく。
しかし、前回同様気になるのは、主人公のキャラクター。妻と娘をこよなく愛し、欲はなく、淡々と生きている。きっと顔もさっぱりとした感じで太ったりしていない。なんか、つまらんのだ。人間くささがなさ過ぎ。そんな無欲なヤツいないって。と突っ込みたくなる。
そして、彼の妻も同様。大会社の会長の娘なのに、心臓が弱せいもあってか、控えめで清楚。金銭感覚は多少一般人とずれているものの、イヤミなところが全くなく「いい子」なのだ。なんかムカツク。いねぇよ、そんなヤツ。とまた言いたくなる。
金持ちの会長の娘とかいったら、ブランド好きでゴージャスなわがままなヤツってのが定番でしょ。いっそ、そういう嫁に困らせられつつ、事件を一緒に解決していくでこぼこコンビって方がおもしろいのに。なんだか出来すぎな二人に好感が持てない、人間の小さい私なのだ。

 模造人格      北川歩実 6.2カラット
久しぶりに図書館で手に取ってみた北川歩実。
母親に置き去りにされた「木野杏菜」は交通事故で記憶をなくしている。しかし「木野杏菜」は4年前の猟奇殺人事件で殺されている。果たして彼女はホンモノの「木野杏奈」なのか?それとも、交通事故で記憶を無くした全く別の少女を「木野杏奈」に仕立て上げただけなのか?
謎を解くにつれ、4年前の殺人事件の真相が明らかになっていく。
北川歩実お得意の、「記憶喪失」系。トリックとては良くできていて、何が真実なのか、誰が嘘をついているのか、最後までわからなくてどきどきはらはらする。そしてちゃんと、しっかり驚かせてくれる。さすがといってもいいだろう。ただし、前にこの人の作品を読んだときも思ったかもしれないけど、そんな都合良く記憶を無くしたり、何かのきっかけでフラッシュバックのように思い出したりするもんだろうか?記憶喪失って、小説やドラマの定番だけど、そんなにはないよなぁ。なーんて言ってしまっては、駄目かね。それも込みで楽しまないと?

 失われた町     三崎亜記 6.0カラット
「となり町戦争」の三崎亜記の新作長編。30年に一度町が消える。30年前のソレを防ぐことが出来ず、大切なものを失った人たちが、今おこりつつある消滅に立ち向かう。
町が意志を持っていて、人を取り込んだまま消滅していくという事態を理解するまでに結構かかった。だって、なかなか把握しづらいでしょ?「だって、逃げればイイじゃん!」とか「汚染」ってなんだよ?とか理解できない事が結構あるのだ。
加えて、「居留地」という特殊な文化圏での出来事と、理解の範囲を超えた世界が広がっている。広がりすぎている。
これほど、超現実の世界を描くにはちょっと説明不足ではないか。私の頭が足りないのかもしれないが、聞いたことのない物語の中の言葉、地名、システムを理解するのがいっぱいいっぱいで、人物の心理に近づけない。これだけの壮大な冒険SFファンタジー(と私的には位置づけたのだけど)なら、上中下巻3冊とかにしないと、理解しきれない。


 沈まぬ太陽(1〜5)  山崎豊子 8.0カラット
昨年春から読み始め、1冊読んでは数ヶ月空け、2冊読んではまた空け、とついに今までかかってしまった、全5巻。
こんなに時間がかかったのは、つまらなかったからでは決して無く、読み始めると一冊一気なのだ。(でもなぜか途中で息尽きたの)
航空業界の裏側を描いたこの大作、組合活動をしたがために、海外勤務を転々とさせられる恩地元。
そして、3巻で描かれる史上最悪の航空機事故「御巣鷹山事故」の顛末。4巻、5巻では事故から企業を立ち直らせようと戦う会長と会長室に呼ばれた恩地を描く。
とてつもない綿密な取材によって、書き上げられたこの作品が、どの企業をモデルにしたかは明らかで、実際訴訟問題にもなったと聞く。
どこまでが、真実でどこまでがフィクションなのかはわからないが、あまりにリアルすぎて、小説であることを時として忘れる。
特に御巣鷹山事故の様子、遺体の確認のシーンなどあまりに真に迫っていて、読むのがつらいほどである。
そして、4巻、5巻で描かれている企業と政治、さらには海外との癒着などを見ると、「もう、日本って駄目じゃん。根っこから腐ってるじゃん」と言いたくなる。すべてではないにしても、たぶん、残念ながら結構真実なのだと思う。
何にせよ、ものすごい大作、ものすごい迫力だった。

  カラット

カラット

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